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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)5977号 判決 1988年2月26日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 太田常雄

同 岩崎章

被告 乙山春夫

<ほか一名>

右訴訟代理人弁護士 浜田脩

同 加藤祐司

同 内田徳子

主文

1  被告らは、別紙物件目録一1、2記載の各土地上に自動車を駐車させたり、簡易車庫、門及び門扉等の工作物を設置してはならない。

2  被告らは、原告に対し、前項の各土地上に駐車させている自動車一台(《番号省略》)を撤去せよ。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はすべて被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文1、2、4項と同旨

2  被告らは原告に対し、一〇〇万円を支払え。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件土地及び周辺土地の権利関係

(一) 亡丙川松夫は東京都北区《省略》旧一八番四の宅地一一六三・三七平方メートル(以下「旧一八番四の土地」という。)を所有していた。

同人は昭和三八年四月二三日死亡し、丙川一夫(以下「丙川」という。)が旧一八番四の土地を相続した。

旧一八番四の土地は、昭和六一年一二月一九日、同所一八番二の土地とともに同所一八番一の土地に合筆され、さらに同日、右一八番一の土地から同所一八番九(別紙物件目録三の土地。以下「乙地」という。)、同番一〇(同目録二の土地。以下「甲地」という。)、同番一一及び一二(同目録一1、2の各土地。以下「本件土地」という。)の各土地に分筆された。

(二) 原告は、甲地を丙川から賃借し、その地上に同目録四記載の建物(以下「原告建物」という。)を所有して、この建物に居住している。

(三) 被告らは、乙地を丙川から賃借し、その地上に同目録五記載の建物(以下「被告建物」という。)を共有して、この建物に居住している。

2  本件土地の賃借権の帰属

原告及び被告らは、本件土地を原告建物及び被告建物から右土地の東側に接する公道に至るための共同の通路として、丙川から共同で賃借している。その経緯は次のとおりである。

(一) 亡丁原竹夫(以下「亡丁原」という。)は、昭和一九年七月以前より、亡丙川松夫から同人の所有する本件土地、甲地(北端の若干の面積部分を除く。以下、この意味で「旧甲地」という。)及び乙地(北端の若干の面積部分を除く。以下、この意味で「旧乙地」という。)を賃借し、旧甲地及び旧乙地上に各一棟の居宅を建築し、所有していた。

(二) 亡丁原は、昭和二〇年二月ころ、原告に対し、旧甲地上にあった家屋番号六四の建物(以下「家屋番号六四の建物」という。)を賃貸し、原告は、後記(六)のとおり、昭和四九年一〇月にこれを買い受けるまで、この建物に居住していた。

(三) 亡丁原は、昭和一九年ころ、亡丙川松夫の承諾のもとに、戊田梅夫(以下「戊田」という。)に対し、旧乙地上にある家屋番号六五の建物(以下家屋番号六五の建物」という。)をその敷地の借地権とともに売り渡した。

(四) 戊田は、昭和二一年一月、亡丙川松夫の承諾のもとに、亡丁田栗夫に対し、家屋番号六五の建物をその敷地の借地権とともに売り渡した。

(五) 昭和三七年七月ころ、亡丙川松夫は旧甲地及び旧乙地の北側に隣接する土地の一部分を取得し、それとともに亡丁原の賃借地の範囲は旧甲地から甲地(合分筆前)に拡大し、亡丁田栗夫の賃借地の範囲も旧乙地から乙地(合分筆前)へと拡大した。

(六) 亡丁原の相続人丁原桜夫は、昭和四九年一〇月、丙川の承諾のもとに、原告に対し、家屋番号六四の建物をその敷地である甲地(合分筆前)の借地権とともに売り渡した。

原告は、昭和五〇年二月、右建物を取り壊して、甲地(分筆前)上に原告建物を新築した。

(七) 亡丁田栗夫は、昭和四七年五月、家屋番号六五の建物所有権及び乙地(合分筆前)についての借地権の持分二分の一を丁田栗子に贈与した。

亡丁田栗夫は昭和四八年八月死亡し、丁田栗子が残りの乙地(合分筆前)の土地についての借地権の持分二分の一を相続により承継し、右建物及び右土地の借地権は丁田栗子に帰属するところなった。

(八) 丁田栗子は、昭和五八年三月二九日、丙川の承諾のもとに、被告らに対し、一部増築された家屋番号六五の建物及び乙地(合分筆前)についての借地権を売り渡した。

(九) 右のような経緯のもとで、本件土地は、一貫して旧甲地及び旧乙地から東側の公道に至るための共用の通路として使用されてきたもので、本件土地についての賃借権も原告及び被告らに承継されたものである。

3  被告らの妨害行為

(一) 被告らは、乙地(合分筆前)の賃借権の取得後、被告建物を建築して居住するに至ったが、本件土地は乙地ともに被告らのみの賃借地であり、被告らが本件土地を自由に専用使用する権利を有するから、本件土地上に簡易車庫、門及び門扉を設置することも自由であると主張している。

(二) 被告らは遅くとも昭和五九年一一月ころ以降、本件土地上に自動車一台(《番号省略》)を日夜駐車させ、それも本件土地に面する原告建物の玄関前の門扉直前に駐車させるという方法で、原告に対する嫌がらせをし、原告及び丙川が再三、自動車の撤去を要求してもこれに応じない。

4  原告の損害

原告の本件土地賃借権に対する被告らの右妨害行為により、原告は甚大な精神的苦痛を被っており、これを慰謝する金額としては一〇〇万円が相当である。

5  結語

よって、原告は被告らに対し、本件土地賃借権に基づき、本件土地上に駐車させている車の撤去、本件土地上への自動車駐車と簡易車庫、門及び門扉等の工作物設置の禁止を求め、かつ賃借権妨害の不法行為に基づき、慰謝料一〇〇万円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) (一)のうち、前段の事実は知らないが、中、後段の各事実は認める。

(二) (二)、(三)の各事実は認める。

2  同2について

(一) 冒頭の事実のうち、被告らが本件土地を被告建物から東側の公道に至るための通路として賃借していることは認め、その余は否認する。

(二) (一)、(二)、(五)、(六)の各事実は知らない。

(三) (三)、(四)、(七)の各事実は認める。

(四) (八)は売買年月日を除き、認める。被告らが借地権を譲り受けたのは昭和五七年一二月二七日であり、被告らは、昭和五八年一月二九日、丙川との間で新たに賃貸借契約を締結した。

(五) (九)の事実のうち、本件土地が旧甲地の通路として使用されてきたことは知らず、旧乙地の通路として使用されてきたことは認め、その余は否認する。

3  同3について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の事実のうち、被告らが自動車を駐車させたのが原告建物の門扉直前であり、嫌がらせをしたこと及び丙川が被告らに自動車の撤去要求をしたことは否認し、その余の事実は認める。被告らは原告建物の門扉から一・四メートルの間隔をあけて駐車させている。

4  同4の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1について

請求原因1(本件土地及び周辺土地の権利関係)については、(一)(旧一八番四の土地の権利関係)のうち、中段(丙川の所有)及び後段(合分筆)の各事実は当事者間に争いがなく、前段(丙川松夫の元所有)の事実は、《証拠省略》によって認められる。

二  請求原因2について

1  乙地の賃借権の承継の経緯等

請求原因2(本件土地の賃借権の帰属)については、その冒頭及び(九)の事実のうち、被告らが本件土地を被告建物から東側の公道に至るための通路として賃借、使用していること、(三)、(四)、(七)、(八)の各事実(戊田、丁田栗夫、丁田栗子を経、被告らに乙地の借地権が譲渡されたこと。被告らの借地権取得年月日の点を除く。)は、いずれも当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、被告らが乙地及び本件土地(いずれも合分筆前)の賃借権を譲り受けたのが昭和五七年一二月二七日であり、被告らが丙川との間で新たに右土地の賃貸借契約を締結したのが同五八年一月二九日であったことが認められる。

2  甲地及び本件土地の賃借権等

《証拠省略》を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  亡丁原は、昭和九年ころより、亡丙川松夫から、同人の所有する本件土地、旧甲地及び旧乙地(契約面積は七〇坪)を賃借し、旧甲地及び旧乙地上に各一棟の居宅(旧甲地上の家屋番号六四の建物の床面積は一五・〇四坪、旧乙地上の家屋番号六五の建物の床面積は一四・七〇坪であった。)を建築し、所有していた。

(二)  亡丁原が昭和一九年ころ、戊田に旧乙地の借地権を売り渡した際(右事実は当事者間に争いがない。請求原因2(三)参照。)、売渡面積は三九坪五三とされたが、それは、家屋番号六五の建物の敷地三六坪一一と、本件土地(私道であり、当時、面積が六坪九一と認識されていた。)に対する賃料の額を算出するため、これをほぼ東西に二分し、西側部分約三坪二七と東側部分約三坪六四の二分の一の一坪八二を加え、さらに家屋番号六四の建物の庇が旧乙地に一坪六七突出していたため、これを差し引いたものであった。

(三)  亡丁原は、昭和二〇年一〇月、原告に旧甲地上にあった家屋番号六四の建物(一五・〇四坪)を賃貸し、原告は同建物に居住した。

右建物の勝手口は公道側にあったが、玄関は本件土地に面しており、原告及びその家族は、本件土地を東側の公道に至る通路として使用していた。

(四)  旧甲地及び旧乙地の北側には細い通路があって、欅林に接していた。昭和三七年ころ、宅地造成工事が行われたため、右通路に沿って植えられていた柾が伐り倒され、業者によって植え直された際、旧甲地及び旧乙地の範囲は、事実上、若干、拡大された。

そのころ、甲地、乙地及び本件土地が測量された結果、全体で八八坪、亡丁田栗夫の賃借する乙地は四二坪とされ、同人の賃借面積はこれに本件土地のうちの五坪(前記(二)記載の賃借面積の端数を切り捨てたもの。)を加えた四七坪とし、亡丁原の賃借する土地は残りの四一坪とすることが関係者間で合意された。

(五)  亡丁原の相続人丁原桜夫は、昭和四九年一〇月二七日、丙川の承諾のもとに、原告に家屋番号六四の建物をその敷地である甲地(合分筆前。同日、新たに作成された土地賃貸借契約書では、借地面積が「壱百参拾五・参平方メートル(四拾壱坪)」と表示された。)の借地権とともに売り渡した。

原告は、昭和五〇年二月、右建物を取り壊して、同地上に原告建物を新築した。

新築建物の敷地面積は、建築確認手続の都合上、一二九・八七平方メートル(三八坪余)として届出られた。

原告建物の玄関は、従来と同様、本件土地に面して設けられ、原告は本件土地を東側公道に至る通路として使用して今日に至っている。

3  本件土地に対する原告の賃借権についての判断

右2で認定した事実関係を総合すれば、原告が本件土地について、賃借権を被告らとともに有していることが認められる。

ところで、前掲乙第一号証(乙地の土地賃貸借契約書)に借地面積として「壱百五十五・参七平方メートル」(約四七坪)との記載があるが、右面積記載の趣旨は右(四)のとおりであって、被告らが本件土地について独占的に賃借権を有することを意味するものではない。

また、前掲乙第二号証(株式会社木下工務店作成の重要事項説明書)には、被告らの取得した借地権の実測面積が一六一・五六平方メートルであり、東側公道に二・七六メートル接し、私道負担がない旨の記載があるが、右書面の記載は前記の認定事実に照らし、措信できない。

なお、《証拠省略》によれば、丁田栗子が昭和四七年六月に建築確認を得た際、敷地面積を一六一・五六平方メートル(約四九坪弱)として届け出たこと、右確認通知書添付の案内図の左下の余白に、丙川の所有土地の管理を任されていた丙田桃夫が、株式会社木下工務店の社員の求めに応じ、丙川名義で、「賃借人乙山春夫、乙山春子に対する貸地についてはこの図面の黄線で示す通りで有ることを証明致します」と記入したことが認められるが、他方、《証拠省略》によれば、丙田はその際、本件土地を原告と被告らに私道として賃貸しているとの考えのもとに右文章の記入の求めに応じたものであることも認められ、同号証の記載は前記認定を左右するものではない。

合分筆後の甲地の面積が公簿上、一三六・六二平方メートル(四一・三二坪)とされており(別紙物件目録二参照。)、昭和六一年一二月一九日の分合筆によって、本件土地が別紙物件目録一1及び2の二筆となったからといって、前記の認定事実に徴し、それだけでは、被告が本件土地を専用賃借していると認めるのに充分ではない。

他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

三  請求原因3について

請求原因3(一)(被告らの主張)の事実及び被告らが遅くとも昭和五九年一一月以降、本件土地上に原告主張の自動車一台を日夜駐車させ、原告の撤去要求に応じないことは、いずれも当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、本件土地の有効幅員は二・七五ないし二・七六メートルに過ぎず、被告らが乙地に住むようになるまで、本件土地に常時、車を駐車させた者はいなかったこと、被告らは原告建物の玄関の前方に車を駐車させることがあり、本件土地に駐車されることによって、原告及びその家族の通行及び居住が不便となるものであること、原告の求めに応じ、前記丙田が丙川の代理人として、被告らに本件土地に駐車させないよう注意したが、被告らは本件土地に専用賃借権を有するとの考えのもとに右の注意に応じなかったことが認められる。

四  妨害排除及び差止め請求について

本件土地について原告も賃借権(建物所有の賃借権に付随するものである。)を有することは前記二3のとおりであり、被告らが右三に記載のとおり、本件土地に日夜、原告主張の車を駐車させることは原告の右賃借権の行使を妨害するものであるから、被告らはこれを撤去すべき義務がある。

また、被告らの前記の主張(請求原因3(一)参照。)によれば、被告らが本件土地上に今後、自動車を駐車させ、簡易車庫、門及び門扉等の工作物を設置する虞れのあることが認められ、原告は被告らに対し、賃借権に基づき、その妨害予防としてその差止めを求める権利があるというべきである。

五  慰謝料請求(請求原因4を含む。)について

被告らが前記三の妨害行為をしたことについて過失があったか否か検討するに、《証拠省略》を総合すれば、被告らが、乙地及び本件土地の賃借権を譲り受ける際、仲介人の株式会社木下工務店の社員から、被告らが本件土地について、独占的に借地権を取得するものである旨の説明を文書及び口頭で受けて購入したものであること、その当時、甲地、乙地及び本件土地の面積を客観的かつ、正確に示す文書がなく、原告が本件土地に賃借権を有するとの根拠について理解することは難しかったことが認められるのであり、右状況下において、被告らに過失があったと判断し得べき事情が存在したことについて、何らの主張、立証もない。

次に、原告の精神的苦痛について検討するに、それが被告らに対する不快感程度を超えるものとの証拠はなく、右不快感も本判決によって、前記のとおり、妨害排除及び差止めを求め得ることにより、回復するとみるのが相当である。

よって、原告の被告らに対する慰謝料の請求は、理由がない。

六  結論

以上のとおり、本訴請求は、差止め及び妨害排除を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を適用し、仮執行宣言の申立ては不相当であるから却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田幸夫)

<以下省略>

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